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No.8
筆跡
ぷらいべったー再録
「ロドス、か」
あの危機から、少し経った。
大荒城内は復旧に追われ、毎日そこかしこで小型源石エンジンの音が響いている。
一緒に危機を切り抜けた
彼
(
・
)
は「復職」が急に決まり、忙しなく去っていった。
彼
(
・
)
の付き人だったユンさん経由で手紙は貰ったが、別れの挨拶を直接交わせなかったのは寂しかった。
けれど、
彼
(
・
)
に対しては厳しく接してしまったから、これくらいが丁度良かったのかもしれないと、己を納得させている。
何故なら
彼
(
・
)
は、最後まで自分が何者であるか……ほぼ語らず終いだったから。
辛うじて解ったのは「仕事中にやらかして左遷された、”燭台”に縁がある役人」であるということくらい。
きっともう、再会は叶わないだろう。
……余程のことがない限り。
「それは?」
「推薦書。ロドス・アイランドって製薬会社の」
「この前、言ってたやつ?」
「そう」
「……やっぱり、シャオホーも行っちゃうの?」
「定期的には帰って来る。天師府への報告もあるし」
「それでも寂しいなぁ……めんめんだってそう思うでしょ?」
傍らのめんめんに語り掛けるシャオマンは、不機嫌だった。
幼馴染である僕もここを去ってしまうと言えば、こうなると予想出来ていたが。
「ほら、めんめんも『さみしい』って言ってる!」
「またそうやって引き合いに出す……」
「……ん?」
シャオマンは僕の手元にある推薦書を覗き込むと、嬉しそうに笑う。
「この署名……シュウ姉ちゃんだ!」
「そう。先生はロドスにいらっしゃるらしくて……それにこっちは、郷長さん」
「……じゃあ、これは?」
「……わからない」
「えっ?」
「ここまで崩されると流石に読めなくて……ヴィクトリアとかの署名って、そういうものらしいけど」
彼女が指で示したのは、先生の署名の下。
ヴィクトリア語に訳されタイプされた、見慣れない組織名と役職。
……そして流れるような西方の筆記体で記されているのは、確かに誰かの名だった。
***
「……シュウ先生は、わかる」
準備や荷造りに追われているうちにロドス乗艦前夜を迎えた。
結局「推薦書の三人目の署名」は明らかに出来なかった。
所属組織や役職名を検索してみても、関連がありそうなものに辿り着かない。
……それにかなり崩れた筆記体だから、読めない。
ヴィクトリア語は学術面でも共通語だから、天師府でもそれなりに学んだ。
だけどそれは「タイプされた文書」ばかりで……手書きのものは経験がほとんどない。
だからこそ、こうして苦労しているわけであって。
「……どうして、こんな、簡単に」
ロドスに入職するための推薦書は、君ほどの天師であっても取得がかなり難しい。
以前、インターン希望を出した時にそう聞かされた。
こんなにあっさりと推薦書が手に入ってしまうなんて……
あの件
(
・・・
)
があるにせよ、タイミングが合い過ぎているように感じた。
「あの時と……今の、違い……」
僕は、疑問を口にする。
「……『君』なんですか?僕に、来て欲しいと願った『あなた』は」
***
ロドスへの入職・乗艦手続きが一通り終わり、出されたコーヒーを飲んでいた時。
途中で席を外した職員が、見覚えのある二人を伴い戻ってきた。
「……先生に……ズオさん……?」
「久し振りね、シャオホー」
「……お久し振りです」
先生は、相変わらずの柔和な人だった。
彼女の後ろに控えるズオさんは、あの頃よりも幾分か柔らかなように思う。
「どうして、
ここ
(
ロドス
)
に?」
そう尋ねたのを境にして、疑問が次々と湧き出す。
衝動のままにあれこれ尋ねると、ズオさんは戸惑いながら言った。
「……あの」
「……?」
「シャオホーと私は同室ですので、続きは今夜……部屋で駄目でしょうか?」
「え、あ、僕が……同室……?」
「はい。私が
推薦した
(
・・・・
)
こともあり、すんなり通りました」
「……推薦って、あの署名、は……」
「私です」
「ズオさん……」
「……ここにあなたが来た以上、すべてを説明すると話が長くなります。今までの積もり積もった『思い出話』もあるでしょうし」
そう言っている間に、先生と職員の方は退出されていた。
残ったのは、僕とズオさんだけで。
「……ズオさんのことを、もっと知りたいです」
「……私も、君を知りたいです。書類や記録では知り得ないような、君を」
……改めて、よろしくお願いします。
そう言ったのは同時で、顔を見合わせて笑い合った。
アクナ
,
禾烛禾SS
,
2025.1.30
No.8
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「ロドス、か」
あの危機から、少し経った。
大荒城内は復旧に追われ、毎日そこかしこで小型源石エンジンの音が響いている。
一緒に危機を切り抜けた彼は「復職」が急に決まり、忙しなく去っていった。
彼の付き人だったユンさん経由で手紙は貰ったが、別れの挨拶を直接交わせなかったのは寂しかった。
けれど、彼に対しては厳しく接してしまったから、これくらいが丁度良かったのかもしれないと、己を納得させている。
何故なら彼は、最後まで自分が何者であるか……ほぼ語らず終いだったから。
辛うじて解ったのは「仕事中にやらかして左遷された、”燭台”に縁がある役人」であるということくらい。
きっともう、再会は叶わないだろう。
……余程のことがない限り。
「それは?」
「推薦書。ロドス・アイランドって製薬会社の」
「この前、言ってたやつ?」
「そう」
「……やっぱり、シャオホーも行っちゃうの?」
「定期的には帰って来る。天師府への報告もあるし」
「それでも寂しいなぁ……めんめんだってそう思うでしょ?」
傍らのめんめんに語り掛けるシャオマンは、不機嫌だった。
幼馴染である僕もここを去ってしまうと言えば、こうなると予想出来ていたが。
「ほら、めんめんも『さみしい』って言ってる!」
「またそうやって引き合いに出す……」
「……ん?」
シャオマンは僕の手元にある推薦書を覗き込むと、嬉しそうに笑う。
「この署名……シュウ姉ちゃんだ!」
「そう。先生はロドスにいらっしゃるらしくて……それにこっちは、郷長さん」
「……じゃあ、これは?」
「……わからない」
「えっ?」
「ここまで崩されると流石に読めなくて……ヴィクトリアとかの署名って、そういうものらしいけど」
彼女が指で示したのは、先生の署名の下。
ヴィクトリア語に訳されタイプされた、見慣れない組織名と役職。
……そして流れるような西方の筆記体で記されているのは、確かに誰かの名だった。
***
「……シュウ先生は、わかる」
準備や荷造りに追われているうちにロドス乗艦前夜を迎えた。
結局「推薦書の三人目の署名」は明らかに出来なかった。
所属組織や役職名を検索してみても、関連がありそうなものに辿り着かない。
……それにかなり崩れた筆記体だから、読めない。
ヴィクトリア語は学術面でも共通語だから、天師府でもそれなりに学んだ。
だけどそれは「タイプされた文書」ばかりで……手書きのものは経験がほとんどない。
だからこそ、こうして苦労しているわけであって。
「……どうして、こんな、簡単に」
ロドスに入職するための推薦書は、君ほどの天師であっても取得がかなり難しい。
以前、インターン希望を出した時にそう聞かされた。
こんなにあっさりと推薦書が手に入ってしまうなんて……あの件があるにせよ、タイミングが合い過ぎているように感じた。
「あの時と……今の、違い……」
僕は、疑問を口にする。
「……『君』なんですか?僕に、来て欲しいと願った『あなた』は」
***
ロドスへの入職・乗艦手続きが一通り終わり、出されたコーヒーを飲んでいた時。
途中で席を外した職員が、見覚えのある二人を伴い戻ってきた。
「……先生に……ズオさん……?」
「久し振りね、シャオホー」
「……お久し振りです」
先生は、相変わらずの柔和な人だった。
彼女の後ろに控えるズオさんは、あの頃よりも幾分か柔らかなように思う。
「どうして、ここに?」
そう尋ねたのを境にして、疑問が次々と湧き出す。
衝動のままにあれこれ尋ねると、ズオさんは戸惑いながら言った。
「……あの」
「……?」
「シャオホーと私は同室ですので、続きは今夜……部屋で駄目でしょうか?」
「え、あ、僕が……同室……?」
「はい。私が推薦したこともあり、すんなり通りました」
「……推薦って、あの署名、は……」
「私です」
「ズオさん……」
「……ここにあなたが来た以上、すべてを説明すると話が長くなります。今までの積もり積もった『思い出話』もあるでしょうし」
そう言っている間に、先生と職員の方は退出されていた。
残ったのは、僕とズオさんだけで。
「……ズオさんのことを、もっと知りたいです」
「……私も、君を知りたいです。書類や記録では知り得ないような、君を」
……改めて、よろしくお願いします。
そう言ったのは同時で、顔を見合わせて笑い合った。