No.3

わかりやすいひと


Twitter再録


「……おかえりなさい」

ロドスでの居室に帰って友人にして今は恋人である彼は、明らかに不機嫌だった。
他のフィディアと比べても厳つい尻尾も、彼の機嫌を反映しているのか床を叩いている。

「……ただいま帰りました」
「何があったんですか」
「……また負けたんです。皆との麻雀やポーカーで」

ズオさんは、不機嫌なのを隠さない。
それに少し幼気な声さえ、可愛らしいと思ったのは恋人ゆえの盲目さゆえ?
……可愛らしい、ズオさん。

「ニェンだけではなく、ドクターや宗師にまでも……」
「………」
「お願いがあります、シャオホー」
「何ですか?」
「数回、勝負に付き合っていただけますか?勝ったら好きにしていただいて構いませんので」

***

「……どうして貴方にも負けるのでしょう……」

何回かポーカー、ババ抜き、七並べををして、その度に勝ってしまった。

ズオさんは確かに強い。
けれど、それを台無しにしてしまう程の大きな弱点があった。

「そう言われても……」
「表情には出さない訓練を、しているのですが……」
「……それに僕だってそれなりに強い方ですよ、さっきの言われ方はちょっと」

目に見えないものが、あまりにもわかりやすかった。
感情は、目で見てわかる「表情」にこそ出ていない。
だけれども「雰囲気」でわかってしまうのは……ズオさんらしいといえばそうかもしれない。

「……すいません」

僕には弱いのか……ズオさんはすっかり項垂れてしまった。
あれほど荒ぶっていた尻尾も、今はだらりと垂れている。

「何か、私にわかりやすい箇所はありました……?」

そう尋ねる声も、落ち込みながらも悔しいのがわかりやすくて、可愛らしい。
……でも僕は言わない。絶対に言わない。
ころころと雰囲気が変わるズオさんが、愛らしく、いとしいから。

「……ズオさん」
「シャオホー……?」
「好きにしていいんですよね?阿乐(・・)

額にキスして、そう彼に意地悪混じりに言う。
みるみるうちに尖った耳の先端まで真っ赤にした阿乐(・・)は、まだ少しだけ悔しがっている。

……かわいい。

「……貴方、だけですから。こんな勝負を持ち掛けるのは」
「……わかってますよ」

唇へのキス。
諦めたのか、観念したのか、阿乐(・・)は積極的に舌を絡めてきてくれる。
……うれしい、いとしい。

「貴方の……禾生(・・)の、好きなように、してください……」

それが、合図。
僕だって、あなたを好きにしたい日はある。

アクナ,禾烛禾SS,