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No.11
きみのこと
2025/02/01-03開催 webイベント「年年有余春満乾坤」開催記念
「……ズオさん」
「どうしました?」
「そういえば、僕は君のことを全然知らないな……って、思ったんです」
何気なく言葉にすると、傍らのズオさんは少しだけ強張った表情になった。
……何かまずいことに触れてしまったかな。
「……
本来の役職
(
司歳台の持燭人
)
は、お伝えしたでしょう?」
「いえ、そうではなく……」
「?」
「家族のことや、君が僕と出会うまでどうしていたのか……知りたくて」
そう続ければ、ズオさんの表情は次第に曇っていく。
「知らない方が幸せ、ということもありますよ」
「ズオさん……?」
「高官の息子……というだけではご不満ですか?」
「納得いきません。僕はもっと詳しいことを知りたいです……特別な人、ですから」
ズオさんは僕のこういった言葉に弱いとわかっている。
だから、気恥ずかしいけれど敢えて本心を口にした。
「……怖いのです」
「え……?」
「貴方たちも
かれら
(
・・・
)
のように、私の生まれや立場しか見なくなると……考えると」
「なに、いって……」
「約束してくださいますか?これからも、変わらないと」
何処か、哀願にも見えた。
正直なところを言えば、今更ではある。
最初期に僕が厳しく接しても諦めて逃げることなく、付いてきてくれた。
そして大荒城の危機をともに救い……そのさなかで己を顧みない行動をした僕が
戻ってきた
(
・・・・・
)
のを、
希望
(
・・
)
を見つけたのを、喜んでくれた。
……空回りしても糧として、諦めずひたすら頑張り続ける人。
そんな彼の本質を知った以上……生まれや立場なんて、付属品にしか過ぎない。
ズオさんはズオさんであって、そんなことで変わるはずがない。
僕は、決意を込めて頷いた。
「勿論です」
「小禾……わかり、ました」
「!」
それからズオさんは、自分や家族のことを話してくれた。
出会った頃に朝廷の高官であることを否定しなかったけれど、移動都市ひとつを治める将軍が父親とは余りにも想定外だった。
故郷の防壁から眺めた夕陽。
百灶の学宮での日々。
持燭人の任務で訪れた、尚蜀を始めとした炎国各地のこと。
……そして大荒城での、僕たちと経験したこと。
とても懐かしそうに、嬉しそうに語る。
そんなズオさんの普段より柔らかな声は耳に心地よくて、もっと聴いていたいとすら思う。
少し微睡みながら手をそっと差し出せば……微笑んで、指を絡めてくれる。
「たくさん見て、たくさんのことを知っているんですね」
「まだまだですよ。私が知らないことは、このテラの大地に溢れていますから」
「ズオさん……」
「……貴方と『この先で出会うもの』を共に見て、そして知りたいのです」
嬉しそうに、目を細める。
それにつられて、僕もつい同じことをしてしまった。
……そんなことすら愛おしくてたまらなくて、互いに笑い合った。
アクナ
,
禾烛禾SS
,
2025.2.1
No.11
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2025/02/01-03開催 webイベント「年年有余春満乾坤」開催記念
「……ズオさん」
「どうしました?」
「そういえば、僕は君のことを全然知らないな……って、思ったんです」
何気なく言葉にすると、傍らのズオさんは少しだけ強張った表情になった。
……何かまずいことに触れてしまったかな。
「……本来の役職は、お伝えしたでしょう?」
「いえ、そうではなく……」
「?」
「家族のことや、君が僕と出会うまでどうしていたのか……知りたくて」
そう続ければ、ズオさんの表情は次第に曇っていく。
「知らない方が幸せ、ということもありますよ」
「ズオさん……?」
「高官の息子……というだけではご不満ですか?」
「納得いきません。僕はもっと詳しいことを知りたいです……特別な人、ですから」
ズオさんは僕のこういった言葉に弱いとわかっている。
だから、気恥ずかしいけれど敢えて本心を口にした。
「……怖いのです」
「え……?」
「貴方たちもかれらのように、私の生まれや立場しか見なくなると……考えると」
「なに、いって……」
「約束してくださいますか?これからも、変わらないと」
何処か、哀願にも見えた。
正直なところを言えば、今更ではある。
最初期に僕が厳しく接しても諦めて逃げることなく、付いてきてくれた。
そして大荒城の危機をともに救い……そのさなかで己を顧みない行動をした僕が戻ってきたのを、希望を見つけたのを、喜んでくれた。
……空回りしても糧として、諦めずひたすら頑張り続ける人。
そんな彼の本質を知った以上……生まれや立場なんて、付属品にしか過ぎない。
ズオさんはズオさんであって、そんなことで変わるはずがない。
僕は、決意を込めて頷いた。
「勿論です」
「小禾……わかり、ました」
「!」
それからズオさんは、自分や家族のことを話してくれた。
出会った頃に朝廷の高官であることを否定しなかったけれど、移動都市ひとつを治める将軍が父親とは余りにも想定外だった。
故郷の防壁から眺めた夕陽。
百灶の学宮での日々。
持燭人の任務で訪れた、尚蜀を始めとした炎国各地のこと。
……そして大荒城での、僕たちと経験したこと。
とても懐かしそうに、嬉しそうに語る。
そんなズオさんの普段より柔らかな声は耳に心地よくて、もっと聴いていたいとすら思う。
少し微睡みながら手をそっと差し出せば……微笑んで、指を絡めてくれる。
「たくさん見て、たくさんのことを知っているんですね」
「まだまだですよ。私が知らないことは、このテラの大地に溢れていますから」
「ズオさん……」
「……貴方と『この先で出会うもの』を共に見て、そして知りたいのです」
嬉しそうに、目を細める。
それにつられて、僕もつい同じことをしてしまった。
……そんなことすら愛おしくてたまらなくて、互いに笑い合った。